カテゴリー「書籍・雑誌」の記事

2013年6月24日 (月)

荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟 (集英社新書)

ミートボールを肉球と呼びたい八橋壮太朗です。


荒木飛呂彦の超偏愛! 映画の掟 (集英社新書)

著 荒木飛呂彦

ジョジョでおなじみの荒木飛呂彦さんが映画の本を出されました。あれ、前にもありましたよね。


荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)


↑前著

ホラー映画について書かれた本でしたが、今回は「映画の掟」。一気にノンジャンルか?と思って読んでみれば、サスペンスという視点を土台にして書かれています。

ところで、大変困りました。取り上げられている映画タイトルを並べるわけにもいかず、要約するわけにもいかず。「荒木飛呂彦が選ぶサスペンス映画ベスト20」で始まっているこの本が、どういう構成なのか、まずは書いてみようと思います。もちろん目次丸写しせず。

とにかく荒木飛呂彦さんが今まで楽しみ、分析してきたことを話されていて、一般的にどうこうという内容ではありません。冒頭で、面白いとは何かという凄く重要な話をサラっとされます。好き嫌いや時代の価値観に関係ない不変の法則とは何だろうか。筆者が面白いと感じる作品たちを分析していくと、そこにはサスペンスがあった。エンターテイメントの基本はサスペンスにあり。ジャンルという意味でのサスペンスではなくて、サスペンスの要素に着目してSFやアクション、ラブストーリーまで見ていくと面白いかどうかにブレずにたどり着ける基本だったとおっしゃるのです。分析の結果、よいサスペンスには、5つの条件を満たしているそうですが、そこは本書をお読みください…。

次に、サスペンスといえばコレですよ!という作品をいくつか紹介されています。何を挙げられているかは伏せておこうと思いますが、キーワードとして出てくるのは「男泣きできる」「プロフェッショナルな行動」など。大義名分があれば何でもやる主人公。常識からはハズれても自分のポリシーは貫き通す。損得で動かない。悲しい現実の中でも逃げずにアグレッシブ。マイケル・マン監督の作品などをススメておられます。ツボだったのは、強いキャラが倒されても更に強いキャラが登場する「強さのインフレストーリー」は懐疑的だ、とおっしゃっているところ。ソレって…(笑)

そのあと、何人かの名監督に学ぶテクニックを紹介されています。どうやって期待させるのか。見せ方の順番が完璧すぎる、とある作品の某シーン。起承転転転転転転転転…。ひとつのシーンにいくつもの伏線を詰め込み表現していく。途中でジャンルを変えて観客を突き放す。パッと切り替えずにヌルっと切り替えるのもあったり。

後半は、エロサスペンスは売れない扱いされてるけど良く見るといい作品も多いよ!イーストウッドはジャンルだ!見るまでは「大丈夫か?」と思わせておいて見るとメチャおもしろいんだよ!シリーズ映画やテレビドラマ、アニメも軽く見ちゃだめ!昼ドラもすごい好き!という内容です。めちゃめちゃかいつまみました。

前半は分析したことを元に、わかりやすく語っていらっしゃいます。後半は、映画好きなんだよ!という思いがひしひしと伝わる内容になっています。もちろん、ジョジョなどで描くときに参考にしたんだよ、というお話も出てきて、ファンには嬉しい一冊です。

この本を読んでよかったなと思いました。その理由は、「映画を見たくなる」ということ。どこかどう面白いのか、語られていて、うわ、見たいよソレ!と何度も思う。間違いなくレンタル屋に走りますね…。そして、もうひとつ良かった理由があります。超メジャー漫画家さんという、物語の創作をされている方が語る映画だからです。映画業界の人が語っているのとは決定的に違うポジションがそこにはあります。知識を詰め込むわけでもなく、全ての映画を見ている前提で語られるわけでもなく、純粋に業界の外側から語りつつ、でもその分析や姿勢が深い。そういう意味では、役者さんや制作事情から切り離された本です。ストーリーの面白さに迫る本となっていると思います。

読みやすいのでオススメです。

荒木飛呂彦の超偏愛! 映画の掟 (集英社新書)
荒木 飛呂彦
集英社
2013-05-17

by Amazon

2013年6月10日 (月)

福辻鋭記「寝るだけダイエット」

扇風機の代わりにサーキュレーターを買って満足している八橋壮太朗です。


寝るだけダイエット

福辻鋭記
扶桑社

とある場所で、とある女性から「寝るだけで痩せるダイエットがオススメよ♪」と言われてから、ずっと気になっていた「寝るだけダイエット」。これが続かないのでは、おそらく何もできないでしょうというレベルの方法です。読んでみると、整体の最も効果があって簡単な部分を寝るだけで実現しようという、現実的かつ効果も期待できる納得の内容。骨盤矯正を面倒なく行う内容です。あまりにもストレートな内容で好感が持てます。

ダマされたと思ってやると、たぶん最も嬉しい結果になりそうな感じがしています。こういう、寝るだけダイエットの最大のメリットは「筋肉をつけない」ということ。ジムで汗を流すのもいいけれど、筋トレをやってムキムキになりたいワケじゃない人は多い。だから女性に人気なんですね。

内容は簡単だし、漫画もあって、楽しく読める工夫がされていますが、正直なところシンプルすぎてボリューム足したんでしょうか(笑)。ちゃんと、身体のどこを意識して、どういう矯正をするのかを説明してくれているので、説得力はあるんですが。Kindleで読むには、こういう本がイチバン適している気がしました。毎日5分寝るだけのこの方法、オススメです。

寝るだけダイエット
福辻 鋭記
扶桑社
2010-05-13

by Amazon

2013年6月 5日 (水)

岩明均「寄生獣」

知り合いにシンイチという名前の人がいなくてよかった八橋壮太朗です。


寄生獣

岩明均
講談社

想像力たくましい子供を簡単に引き込む世界がアフタヌーン(講談社)にありました。中でも最も忘れられないのが岩明均さんの「寄生獣」。最近になって読み返しても、まったく色あせることなく没入させられてしまいました。1にも2にも、「ミギー」なんですが、その前にストーリーを振り返ってみましょう。こんなに素晴らしく練り上げられたお話をうまく書けるか自信がありませんのでかいつまんでご紹介。

概要から。主人公のシンイチは高校生。舞台は現代の日本です。現代と言っても、1990年代です(連載当時)。宇宙から未知なる生命体がやってきて人間に寄生します。寄生と言っても、心身ともに乗っ取られます。彼らの主食は人間なので、各所で奇怪な殺りくが発生し、主人公も巻き込まれていきます。人間vs寄生生命体という、種の争いがジワジワと進行する。食物連鎖のピラミッドに君臨するの人間の倫理観や正義感とは?というスケールの大きな課題を日本の男子高校生を通して描かれています。

主人公のシンイチが主人公たる由縁は、未知なる生命体に中途半端に寄生されてしまうというレアケースによって生まれる。他の寄生された人間は、脳を中心に乗っ取られて心身ともに化け物になります(見た目は自由自在なので人間の見た目のまま生活しています)。シンイチは生命体に腕から進入されたところで目が覚めて、腕をしばって脳への介入をふせぐことができた。結果、右腕だけが化け物という貴重な存在になる。自在に変形し、知能を持つ右腕をシンイチは「ミギー」と名づける。ミギーにとって、生命維持にはシンイチという寄生対象が絶対に必要であるため、不思議な共存関係が始まる。

未知なる生命体は人間を食糧とするため、各地で奇怪な殺りくが発生します。しかも、彼らは同種族が近くにいると感知できる能力があるため、シンイチは未知なる生命体から好奇の目で近づかれます。シンイチが脳まで寄生されていない、ほとんど人間だということにすぐ気づかれるため、「危険なヤツ」として命を狙われます。ミギーは同じ生命体の仲間ではあるものの、シンイチが死んでは生きられないので、共闘することになります。

未知なる生命体に感情は無いものの、一部に知能が発達した者も現れます。だんだん人間を勉強し、組織化し、社会に浸透しはじめるころ、シンイチは友達や家族が犠牲になって殺されるなど憎しみのカタマリとなっており、人間と未知なる生命体の戦いのキーパーソンとなる。最後は重火器を持って組織化された人間たちのほうが強く、勝利します。作品全体を通じてシンイチは、人と自然、人と地球の関係について体感的に悟ることになります。そんな話です。

さて。うまく説明できたかわかりませんが、最も重要な存在「ミギー」を飛ばしています。この作品はシンイチとミギーの不思議な友情関係が面白いのです。感情を持たない未知なる生命体のミギー。シンイチの戦う相手と同じ生命体であるミギー。命を狙われるシンイチを守るミギー。生死をかけた数々の試練を共闘していくことによって、シンイチは敵と同種であり感情も持たないはずのミギーとの強い情が生まれていく。そしてそれがどうなるかは…書かないでおこうと思ったのですが書いてしまいましょう。ミギーは自分の存在意義や未知なる生命体そのものが何なのかをずっと考えていた。しかし、最強の寄生生命体(ラスボス後藤)までも人間たちに倒された最後では、人間の情を悟ったのかのような域に達したようで、シンイチに寄生したままではあるけれど表立って活動することはやめてしまう。まるで死んだかのように。ミギーがこの決断をし、シンイチとお別れを言うシーンは感動してしまうのです…。ミギー!いかないでくれ!

そこでお話を終わらせることなく、ちゃんと最終話でミギーの存在を確認できるような出来事が起こって完結します。なんてよく作られたお話なんだ!!ミギー!

1巻の表紙に書かれている文章が強烈ですね。

シンイチ……

『悪魔』というのを本で調べたが……

いちばんそれに近い生物は

やはり人間だと思うぞ……

寄生獣(完全版)(1) (アフタヌーンKCDX (1664))
岩明 均
講談社
2003-01-21

by Amazon

2013年5月29日 (水)

小手川ゆあ「君のナイフ」

煩悩が捨てられない八橋壮太朗です。


君のナイフ

小手川ゆあ
集英社

ファンタジック殺し屋ストーリー「君のナイフ」が10巻をもって完結となりました。スーパージャンプからグランドジャンプPREMIUMまで4年に渡る連載、お疲れさまでした。小手川ゆあさんと言えば黒髪の女の子がキュートなところにシリアスというかダークなお話というのが好きなのですが、この作品もステキな黒髪女子が満載でございます(じゅるり)。

なにはともあれ、概要をご紹介。高校教師の志貴は金に困っていた。重病の姉のために莫大な医療費を用意しなければならないからだ。金で人殺しを依頼され、犯行グループの一員となる。そこには久住という刑事もいた。勢いと流れで参加してしまったものの、殺人行為に抵抗感があったためミッション中に居合わせた、いつきという不思議な少女を殺さずに家にかくまうことになる。人に触れると、その相手の名前や何を考えているかなどを知ることができる。なんだかんだ言って、人殺しの依頼を続々と引き受けてしまううちに、犯行仲間の久住や運転手担当のヤンと抜き差しならない関係になってゆく。いくつかミッションをこなす中で、またしても居合わせた無職の槇原を殺さずに仲間に引き入れてしまう。依頼をこなしていくうちに、志貴はためらいもなく銃殺できるようになっていた。ただ、犯行を重ねていくうちに、ボロも出てしまうし計算外のことも発生するため、徐々に警察の手が忍び寄る。警察の内部事情も併せて描かれ、一枚岩でもない上に女性刑事が殉職するなど、多くの人間関係がうごめくのですが混乱することもなく丁寧に表現されていてどんどん読み進めていける内容です。

どうも上手く紹介できずに申し訳ございません…。

基本的にサスペンスなんですが、シンプルすぎず、込み入りすぎず、いい塩梅で作られている作品です。主人公に感情移入できるものの把握しきれるほどすべてが明らかにはしてくれず、仲間も温情ありそうだけど表面的にはクールです。お約束とお約束ハズシのバランスが適度で、心地良いです。個人的には黒髪少女がかわいいのでそれだけできゅんきゅんですが…(笑)

勝手な希望ですが、小手川ゆあさんにはスターシステムを採用したデタラメ感が満載の作品を描いていただきたいなと思っております。そしてもうひとつ、好きじゃないジャンルの作品にトライしてみてほしいです。イヤでしょうけど…。ヒーローモノや特撮モノが好きなクリエーターに、ヒーローも特撮も一切封印した作品をつくっていただくと、激烈に面白くなることが多いと思っているのですが、そんな一面があるんじゃないかと勝手に思っている次第でございます。

連載おつかれさまでした。

君のナイフ 1 (ジャンプコミックスデラックス)
小手川 ゆあ
集英社
2010-04-02

by Amazon

2013年5月24日 (金)

松井博「企業が「帝国化」する アップル、マクドナルド、エクソン~新しい統治者たちの素顔」

大日本帝国の八橋壮太朗です。(深い意味はありません…)

語り口に品があって好感が持てたので、松井博さんの本を続けてKindleで購入しました。



著 松井博
出版社 アスキー・メディアワークス

まずは雑感から。
・急に壮大なテーマになりましたね…
・映画「スーパー サイズ ミー」を見てから読むとより面白い
・アップルも自前の工場がありましたよね、そういえば。
・租税回避の話も面白い。以前、iPhoneの有料アプリをリリースしたら、売上げがアイルランド扱いになって日本へ海外送金しないといけないという話を聞いたのを思い出した(今は違うと思うけど)
・創造性のある仕事ができないといけないのは納得
・食の安全は「スーパーサイズミー」の続編って感じがしました
・胸の大きな女の子!
・グーグル依存してます
・石油資源があると国が滅びる、って話は、日本だと温泉かな?ちと違うか…
・出た!ロビー活動
・帝国の末端で酷使されるのは不幸とは限らない?
・最後に「ではどうすればいいのか?」が書いてある!!

今回も品のある文章が好感触でした。難しい言葉が少ないのに品があるというのは、ボクにとって「読みたい」と思う理由としてとても大きい。言葉は人を現すものなんでしょうね。ボクも見習いたいです。

いきなり壮大なテーマになって、ちょっと説得力が薄くなっている感じがしました。表現したいことはわかりやすくて伝わってくるのですが、細かいところひとつひとつは、ちょっと悩ましい(自給率とか)。それでも2冊目でこのテーマはチャレンジング。すごいです。ご自身の体験を元に書かれている部分も多いので、全体としては為になると思いました。

全編を追って書いていくにはちょっと量が多いので、雑感で代えさせていただきます。

本書の最も価値があるのは、最後に「ではどうすればいいのか?」が書いてあることです。けっこう具体的だし、日本で成功してる友人もおりますという、「厳しいけど道はあるはずだ」と思える内容です。すべてを正しいと言う気もないし、鵜呑みにする気もありませんが、ここまで踏み込んで「ではどうすればいいのか?」を書いてくれている本は珍しい。他の本だと「自分で考えろ」なんてお茶を濁して終わってもおかしくないんですけど、真正面からぶつかって答えを教えてくれています。これが千円もしない本で読めるのは驚異的!!

2013年5月22日 (水)

RIN/萩尾ノブト「とりしまっていこー!」

ひと晩で3回の職務質問を受けたことがある八橋壮太朗です。千代田区は警察官がいっぱいです。


とりしまっていこー!
原作 RIN
作画 萩尾ノブト

しばらく読まなくなっていた雑誌ヤングアニマル(白泉社)を、再び買うようになったのが、「とりしまっていこー!」です。昔に比べれば、ほとんど漫画を読まなくなりました。久しぶりに読もうかと思って書店で手に取ったら、連載第一回目。こりゃ運命でしょう。買いましょう。買いました。それからしばらくたち、惜しくも完結となりましたので、コミックス購入完了とともにご報告です。

勝ち気過ぎる女刑事“いちず"と出世コースをドロップアウトした“UMA"。吉祥寺署の問題刑事ふたりが、難事件を解決する……!? エロスにまみれた(?)オフビート刑事ドラマ!! 2013年4月刊。
Amazon内容紹介より引用

刑事モノなんですが、芝居の嘘と勢いでよくわからないけど解決するという、主人公ふたりの愉快なキャラクターを楽しむ作品です。ぶっ飛んでるキャラなのに、真面目で情が厚い描き方になっているので、アクセルとブレーキの踏み分けが難しそうな印象でした。登場人物に愛着が持てるので、もうちょっとダラダラして長く続けて欲しかったです。4コマ漫画として復活していただきたいです。

コミックスにして全3巻ですが、だんだん面白くなって行くだけに、無念。2巻では調香師の小西が出てきて、ニオイフェチでファザコンそして画的にも一番好きなキャラです。親子関係と事件が絡んでくるところでもあって、盛り上がってきたぞー!となります。3巻では偽善キャラのサッカー選手の事件が起こります。事件の中では、ここが一番好き。UMA君も更正します(笑)。3巻が一番面白い。終盤に勢いが加速するので、フィクションを楽しめる人には後半ほど面白いという、なんで続かないんだ!と詰め寄りたいのですが応援が足りなかったのでございましょう…。

ちなみに、甲斐谷忍さんの「翠山ポリスギャング」を読み直したくなる作品でした。というか読み直しました。刑事モノは良いっすね!

2013年4月30日 (火)

松井博「僕がアップルで学んだこと 環境を整えれば人が変わる、組織が変わる」

はじめて触ったMacがカラークラシックIIだった八橋壮太朗です。

Kindleで読みたい漫画になかなか辿り着けないと思っていたときに、買いました。

僕がアップルで学んだこと 環境を整えれば人が変わる、組織が変わる (アスキー新書)
僕がアップルで学んだこと 環境を整えれば人が変わる、組織が変わる (アスキー新書)
著 松井博
出版社 アスキー・メディアワークス

いつもどおり雑感から挙げます。
・書き方に品がある
・なるべく著者自身の語り口にしてある
・わかりやすい
・驚く内容が少ないという驚き(良い意味です)
・懐かしい(アメリオとかG4 CubeとかADBとか…)
・職場のレイアウトひとつで働く意識も仕事のパフォーマンスも変わる
・「社内政治は逃げずに取り組む」という部分だけでも読む価値がある
・上司、管理職、権限が組織のポイント

最初に感想として書きたいことは、内容ではなくて、文章の語り口に品があるということです。アップルやジョブズを引き合いに出して衝撃的な表現を盛り込もうとする本はけっこう見かけますが、さすが元「中の人」。誇張することもなければ裏話のように書かれているわけでもありません。企業全体を把握していたような表現も少なくて、具体的かつ判りやすく、自身の体験と組織のあり方について述べられています。カタカナ語や難しい表現が少ないのに品が良いのは、著者の人柄と能力、編集者の能力が表れていると思いました。とにかく好印象です。

驚く内容が少ないという驚き。それだけに言うが易し、実行は難しいと思わされました。会社の身売りすら難航していたアップルが再生したのは、選択と集中、組織の変革、ゴールの共有といったもので、なにか特別なカラクリがあったわけではないようです。そこが驚きでした。どこの企業でも当てはまるじゃないか!と。わかってても実現するのがどれだけ難しいかというのを感じます。そしてギル・アメリオが始めた改革が、復帰したジョブズによって更に加速したという話は、そこかしこで漏れ聞けましたが、そのとおりだったようです。中の人の空気感が伝わってきて面白かったです。iMacの登場以前からマックユーザーだった人には面白いと思います。

脱線すると、解体されたAdvanced Technology Groupとか、ADBポートが1つしかないPerformaとか、ちょいちょい昔の記憶をくすぐられます。凍結されたコープランドとか。ダダ漏れだった社内情報とか。システム7とか。懐かしい!!

そんな懐かしい話すら淡々と語り去られ(笑)、後半に本書の核が登場します。環境で組織は変わるよ!社内政治と上手に付き合おうね!というお話です。詳細は本書をご覧いただくとして、整理整頓が大事とか、上司にすぐNoと言わないとか、仁義を切るとか、日本企業でも一緒やんけ(というか日本企業の得意そうな部分なんじゃないのか?)という印象。大きく違うのは、管理職の役割と権限、責任の明確化という、マネジメントの部分なんだなと思わされました。企業は学校じゃないよ、上司はパパやママじゃないよ、という。最後は、著者の人生観、仕事観を語られています。

全体を通しての感想は、どんだけ日本企業が惜しいのかと思わされること。著者は品質管理の仕事をされていたそうです。ボクは、もともと生産工学とか品質管理の分野は日本(の工場)の強い部分だと思っているし、「上司にすぐNoと言わない」とか「仁義を切る」とか、上司が絶対だとか、朝から晩まで働いてるとか、体育会系そのものやんけ!という、昭和な日本企業がどんだけ惜しいんだよと…。それだけに、自分の働いている組織にはどこが足りないのか?と思って本書を読むと、とても有意義です。

ちょっとナナメからの感想は、アップルやジョブズというブランド力を使って売り込みつつ、実務的なことを盛り込みつつ、しっかり著者の言いたいことを盛り込んでパーソナリティを出してあって、よく練られた本だなと。思いました。

ここまで読んで、Amazonのレビューを見てみたんですが、思ったより厳しい評価が多い! なにかアップルには裏話が満載だと思っている人が多いのでしょうか…? これほどタイトル通り実直な本は珍しいと思ったのですが…。尾ひれが付きやすいアップルの話を、これほどまでに淡々と語れている本は珍しいですよ?

2013年1月18日 (金)

中島義道、加賀野井秀一「「うるさい日本」を哲学する」

雨の日も、たまには嬉しい八橋壮太朗です。

10年ほど前に中島義道さんの本に出会ってから、どこか救われた感じがしたのですが、今回は「共著があるだなんて!」と思った本書をご紹介したいと思います。

「うるさい日本」を哲学する
「うるさい日本」を哲学する
中島義道、加賀野井秀一

まずは、目次をご紹介。
この本は、中島さんと加賀野井さんが、お互いに書簡をやり取りするという構成になっています。
・はじめに 「うるさい日本」のわたしたち
・第一信 「音漬け社会」 中島義道
・第二信 「言霊の国」 加賀野井秀一
・第三信 なぜ日本人は「あの音」に耐えられるのか? 中島義道
・第四信 理屈よりも感情を優先 加賀野井秀一
・第五信 日本人も捨てたものではない 中島義道
・第六信 日本人(個人)と日本人(集団) 加賀野井秀一
・第七信 大多数の信念という不気味なもの 中島義道
・第八信 他者を理解せよ 加賀野井秀一
・第九信 誠実さと自己欺瞞 中島義道
・第十信 完全な理解はない 加賀野井秀一
・あとがきにかえて コミュニケーションの心得について

どちらも大学の先生で哲学者。タイトルにも「哲学する」という本なので、カタくて難解なのかな〜とか思いそうですが、めちゃめちゃ面白いです。カタくないです。

そして先に言っちゃうと、「あとがきにかえて」で著者2人が対談してるんですが、ここが大爆笑。喫茶店で読んでて、人の目をはばからずに笑い出してしまいました。アカンよ、卑怯だよ!コントみたい。

それでは内容について。
著者おふたりの共通点が「あの音に悩まされている」ということです。あの音というのは、たとえばエスカレーターに乗るときに自動音声案内で流れる「足元にご注意ください」みたいな声。たとえば、電車内や駅構内やバス車内や銀行や郵便局やスーパーやデパートや公演や駅毎商店街や…で垂れ流されている声。「駆け込み乗車はおやめください」「毎度ありがとうございます」「おつりをお確かめください」「駅構内は終日禁煙となっております」などなど。こうした音が耐えられないのです。
そんな共通点を発端に、「あの音」について話が始まります。つぎに、ふたりとも外国での長期滞在経験があり、お国柄の差を話す流れにもなります。そこで、日本人の言葉の扱いのこととか、親切で優しいよね、ということとか、公共(パブリック)と個/私(プライベート)の違いや、ダブルスタンダードで生活しているよね、などなどが語られます。個々の話で面白い部分はいっぱいありますけど、中島さんが繰り返しおっしゃる「欧米では…」「それに対して日本は…」などと言っても、昨今の若い人たちを中心に「ここは日本だから違ってていい」と平気で言われるんですよね、という話が印象的でした。
終盤は、ちゃんと周囲の人や居合わせた人との感情的じゃない会話、中身のある簡単な対話ができるようになっていくといいねという流れで終わります。

ひとつ、笑った話を挙げてみましょう…。
加賀野井さんは日常のやりとりの中で、どこまで議論ができるのかを試すために、ワザとこんなことを仕掛けてみたそうです。それは、日本とフランスのマクドナルドで、店員に注文するときに「ビックマックの上の段をビーフではなくフィレオフィッシュのような魚をはさんだやつにしていただけませんか」と依頼してみたそうです。どういう応対になったかは、本書をご覧いただくとして、ホントにやってみたらしいんですよね…。読んでて笑いが止まりませんでしたよ、、、(笑)

いや〜、全体的に身近な生活感のある「あの音」について、ああでもない、こうでもないと平たくお話になっていて、「まあまあ面白かったな」という読後感になると思ったんです。そしたら裏切られる「あとがきにかえて」。間違いなくコントです。何度も言いますけど大爆笑です。

マンションで、騒音で困って隣人を注意する話、電車でヘッドホンの音がやかましい人を注意する話、明るい昼間に店頭で電灯をつけているのを見つけて、消すように注意する話、禁煙の駅でタバコを吸っている人を注意する話、などなど…。こんなオトナがいらっしゃるだなんて!

中高生や大学生など、社会経験が少ない人たちには、もろ手で大歓迎したい内容なんじゃないでしょうか。ボクは大歓迎した。社会人ですけど…。オススメです。

2013年1月16日 (水)

青木雄二「ナニワ金融道」

大学入試にもドーピング検査が必要になる時代が来ると予想する八橋壮太朗です。

青木雄二先生の名作「ナニワ金融道」をScanSnap S1500で一気に自炊しました。内容確認と言いながら、あらためて一気に読みましたので感想を書きたいと思います。

ナニワ金融道(1): 1 (モーニングKC (254))
ナニワ金融道
青木雄二

ナニワ金融道は、主人公の灰原が街金「帝国金融」に入社して一人前の金融屋になるまでのお話です。サラ金に手を出したらオワリというのが、イッパツで分かる社会のための作品です。よく、独特な絵柄として青木雄二さんの画が扱われることがありますが、それ以上に独特なのはセリフや社名でしょう。

抵当権や手形、債権、いろいろ勉強になります。それよりも、カネに困って転落する人生になるのは強欲な人間だけじゃなくて、善良(だけど無知)な一般人だったりするのもリアル。手堅い人間でも、ハメられるときはある。面白みが増しているのはズル賢い人間でも頭の中で考えていることがセリフとして書いてくれていること。ダマし合いの部分とか、知ってるか知らないかだけの差が命取りになるなど、キャラ以上の面白さがストーリーにあります。警察やマルチ組織まで登場して、なかなかアツいです。

中居正広主演で何度かドラマ化されていて、今考えれば、この原作でSMAPが主演っていうのは、なんとも面白い組み合わせでしたね。

残念ながらお亡くなりになっている青木雄二先生ですが、ここ最近の事件や企業をテーマにした作品を描いてくれたら、どんなふうになっているのかと思います。

Kindle版が出ているんですね。自炊しちゃいましたよ…。

2012年11月13日 (火)

津田大介「ウェブで政治を動かす!」Kindle版

睡魔に逃げられて困っている八橋壮太朗です。

国政選挙、都知事選挙が近いタイミングで、更にKindleの国内販売開始に合わせたかのようにリリースされた津田大介著「ウェブで政治を動かす!」を読みました。出版元も、なにかと話題の朝日新聞出版。狙ってもできないよ!日頃、津田マガ(津田大介さんの有料メルマガ)を懇意にしていますので、今回は愛のあるツッコミを中心に感想を書いておきたいと思います。Kindle版は安いので、iPadやiPhoneを持ってる人は、騙されたと思って買ってみて欲しいです。

ウェブで政治を動かす!
ウェブで政治を動かす!
著 津田大介

取り急ぎ雑感です。
・よくまとめてある
・「おわりに」に代えて」がいい意味で長い。濃い。
・早く読んだほうがいい(鮮度が短そう)
・Kindle版500円て安過ぎる
・やっぱり仕事は真面目な津田さん
・煽動的な内容かと思ったら違った

内容は、主に2つのパートがあります。
(1)ネットと政治の関係を実例を挙げて、よくまとめてある
(2)なんで著者が政治に関心を持つようになったのか
この2つで成立しています。思ったより、読者に政治参加を呼びかけるような感じが無くて拍子抜け。いい意味で

内容は詰まっていて満足ですが、いろいろ詰め込まれているだけにメッセージ性は薄れてしまっていると思います。フジテレビデモが思ったより広がらなかった理由の分析が書かれていますが、それはこの本にも当てはまると思います。政策が思案され、決定されるプロセスをつまびらかにするのかと思えば、政治家がネットをどう使っているのかが書かれていたり、素人が政策にアプローチできた例が書かれていたり、多面的。「餃子の王将」に行ったのに「ラーメン+チャーハン」セットを頼んでしまった時の感覚に近いかもしれません。美味しいんですけどね。餃子も置いてあるんですけどね。チャーハン食いたくなっちゃった的な。

この本は、本当に読みやすいし、よくまとめられています。国際的なネットと政治の関わりについて、1時間で知ったかぶりできるレベルにしてくれる。しかも、事例はバラバラで個別の事案ですが、それをリニアな書籍としてまとめられているのも、読みやすさの理由です。
ただ、大学の課題レポートとしてのデキの良さはピカイチだと思うんですが、読者に何かを訴えたり面白いと思ってもらったりする部分は、ものすごく足りない。著述家の業績として書く意識が強くて、読者に何かを訴えたり、面白いと思ってもらいたいという、ある種の「サービス精神」は感じられない。いい意味で解釈すれば、素直で真面目な読者には伝わる、実直な内容となっております。

それとは別で、著者が政治に興味を持った理由とか、個人的な政治との関わりについて書かれている部分もあるのですが、実はこちらのほうがボクとしては大変興味深い。一般人にとって政治や政治家、もっと言えば政策立案って遠い存在だと思うのですが、津田さんが政治にどう触れたのか、どう思ったのか、という部分を通して、政策立案やロビーイングの実態が身近なものとして感じられる。政策について、意見/主張/提案をしたいと思ったら、一般人はどうすればいいのか。それが書いてあります。その方法は、本書を読んでいただくとして、とても納得できる内容でした。一般人にとっての、政治や政治家との関わり方に、もっと特化して欲しかったと思うぐらい。

愛のあるツッコミと称して、上から目線なことをだいぶ書きましたが、津田さんってエラいなあと思うところも多々感じられるので、せっかくなので書いておこうと思います。
中でも著作権問題の関連で、権利者団体ばかりが政治に提言する中で、対抗する立場としての団体を設立されていることが、サラっと書かれています。これ、本人だからサラっと書いてあるけど、なかなかできませんぜ。設立して、活動して、という、アクティビストたる由縁がここにあるな、と感じました。言うのは簡単だけど、やるのは難しいもの。エラいなあ。ほんとエラいよ。大学で先生やるとか、普通にこなしてますよね。スゴいことですよ、ホント。
そして、政治メディアを立ち上げるという目的を持って有料メルマガをつくり、1年以上継続されている。本を書き上げるのもそうだけど、継続とか書き上げるとか、ただそれだけで素晴らしいことです。簡単ではないと思います。

本書のタイトルは「ウェブで政治を動かす!」ですが、タイトルを勝手に変えるとしたら「ネットで政治の取り巻く環境は変わった」でしょうか。一般人には政治/政策/政治家との付き合い方を考えるきっかけを与え、政治家にはネットをどう使ったら良いかを指南するという、双方への提言やガイドになっています。そして、ネットが政治に深く関わっていくことが避けられないということを、多くの事例を使って説得力を増して語られています。思ったより、一般人向けというよりは政治家向けに書かれている気がして、複雑な気分になりました。

何度か引き合いに出される東浩紀さんの「一般意志2.0」を拠り所に、津田さんの近年の活動を通じて得られた知識や経験を、政治というテーマで書き綴られた本。そんなところでしょうか。東浩紀さんの本が難しくてよくわからないという(ボクみたいな)人には、オススメの本です。ボクは自分が頭が悪いことを自認してるけど、だからと言って難解な本を持ち上げる気はないので(もっと言えば東浩紀さんは圧倒的に正しいけど俺には入って行けない、分厚い本なんか読まないよ、水が合わないよ、ということ)、津田さんの存在は、とても大事で貴重なのであります。

あ、この本の良いところを1つ書くのを忘れていました。
政治家の立場からのネットの使い方について、けっこう詳しく書かれていること。政治家が、普段どう思って、選挙民と付き合っているのか。ネットを使っているのか。そこが想像や推測じゃなくて、具体的にどう考えているかが例示されていて有益です。そこを語るのは、やっぱり政治家と交流がある津田さんのパーソナリティが発揮されていて、間違いなく有益。
もうちょっと大局的に言えば、「誰に投票したらいいのか」「どこの党を選べばいいのか」なんていうレベルの話はさっさと通り越して、いい政策、いい政治を、どうやったら実現できるのかというアプローチについて、正面から述べられています。
そういう意味では、もう少しロビーイングや政策立案プロセスについて、掘り下げて書いて欲しかったかな。

なにかと選挙が近い今、まず読んで損はしない、有益な本です。どこかの政党に偏ったり、煽動したりする内容ではありませんので、安心して読んでいただけると思います。オススメです。

★追加記事★
心ある友人より、この記事は無いんじゃないかというお叱りとご指導をいただきました。自省するとともに、醜態を晒しておこうと思います。指摘された箇所がわかるように削除線を大量に入れてあります。どなたからでも、修正撤回削除などご希望いただけましたら、ご意向に沿うようにしたいと思います。

友人からの指摘
・「愛のあるツッコミ」と称している割に愛がない
・「上から目線」というより「失礼」なだけ
・特に<大学の課題レポートとしてのデキの良さはピカイチ>って褒めてないどころか、かなり頭にくると思う。大学で教えてるの知ってるよな?記事にも書いてるしな
・これこそ思ってても言うな。そして思うな
・援護射撃してると言うけど、背後からランチャーで誤射しているぞ
・少なくとも応援してるのはフリだけに見える
・本当に応援してるの?

最初は「あんまり読まれ無いと思って」などなど抗弁をしていたのですが
・津田マガでググったら、それなりに上位に出てくるサイトというのを知ってて言うな
・発売日の午前0時過ぎに、即Kindleで買って、即ブログ記事書いたものを関係者が読まない訳がないだろ
・日頃オフの場では絶賛して人に本を買わせたりメルマガを読ませたりしてる割に、なぜネットではツッコミが激しいんだ。損してるね君
・いろいろ大変なところを良く理解してそうな文面の割には冷たいよね。愛はないんじゃないか。
・擁護するとしたら、発売後すぐに記事にしたかったんだろうけど裏目に出てるよね
・発売日にすぐに買って即読むのは、確かにのめり込んでるとは思う
・もうオマエは見限られたね、調子乗ってたんじゃね?
・しばらく津田さんのことから離れろ。とりあえず年内禁止
・文字通り「陰から応援」しろ。

などなど叱咤激励をいただきました。
三十路にもなれば、お叱りを受けることも減るものです。真摯に受け止めて、友人に感謝して、日々精進を心します。

より以前の記事一覧

リンク

フォト

VCおすすめ

  • ロリポップってエンジニアが優秀なんですよね。
  • じゃらんは優秀です。振り返ってみればだいたい使う。
無料ブログはココログ